任意後見制度

 任意後見と法定後見の最大の違いは、「契約」によるものかどうかに大きな違いがある。法定後見は、すでに判断能力が不十分となってしまった人に利用されるのに対して、任意後見制度は本人の判断能力があるうちから、契約によって、将来、支援してくれる人とその支援内容をあらかじめ定めておくことができる制度である。契約は公正証書により、公正証書作成後、任意後見契約の登記がなされることとなる。自己決定権の尊重という観点から、当然のことながら、家庭裁判所が本人の利益のために特に必要と認めたとき以外は、法定後見より任意後見が優先する。法定後見制度の場合、要支援者を被補助人、被保佐人、成年被後見人に区分し、同意権、取消権、代理権などについてもそれぞれ法律で定められている。任意後見制度の場合は、判断能力があるうちに契約を締結するわけであるから、成年後見人となってもらう人の選択から、支援を受ける内容まで、本人自身で決定することができる。そして、法定後見の場合は、家庭裁判所が必要と認めたときに限り、成年後見人等の職務を監督する成年後見監督人等が選任されるのに対して、任意後見の開始にあたっては、必ず成年後見監督人が選任される。

 この任意後見制度において最も大きな課題とされるのは、本人と任意後見受任者との信頼関係ではないだろうか。任意後見人の義務は、身上監護については、本人の意思を尊重し、かつ、その心身の状態及び生活の状況に配慮しなければならない(任意後見6条)、そして財産管理については、最善の注意をもって職務を行う義務(任意後見7条④民644条)がある。このような任意後見人としての義務を、誠意をもって遂行してくれるであろうと納得してもらえるような信頼関係の確保がまず重要である。
そして、次に重要な点は、その契約する委任事務と代理権の範囲である。これらは、当然本人の自由裁量による。なお、委任事務は法律行為を対象としており、介護労働のような行為は対象とならない。そして、その際、判断能力が衰えるまでの間の契約(見守り契約及び財産管理契約)および判断能力が衰えてからの契約(任意後見契約)を締結するのが望ましいと思われる。
 任意後見人が、本人からの絶大な信頼をよいことにして、契約内容で対応できないような事態が生じた場合に法定後見に移行することもせず、越権行為に及んだり、規定報酬や立替金以外の金品を受領したり、遺贈として金品を受け取ることは、決して許されるものではない。そういった様々なところを監督し、家庭裁判所へ定期的に報告する義務が任意後見監督人に求められることとなる。任意後見監督人は、任意後見人と異なり、家庭裁判所が選任する。契約の中であらかじめ定めることはできないが、希望があればその旨を表明しておくことができる。裁判所は、後見人と監督人の馴れ合いにより監督が形骸化することのないようにその希望に拘束されず、本人の意見も考慮した上で後見監督人を選任する。
 今後、この任意後見制度が広く利用されるようになるためには、この制度を周知させることはもちろんのことであるが、やはりネットワークを駆使して、依頼者のために必要な情報を集め、適正な決断ができ、財産管理や収支計画、ライフプランが作成でき、依頼者の信頼に充分応えられるような成年後見人等の育成が重要であろう。 そして、もちろん成年後見監督人も重要である。家庭裁判所の目は、成年後見監督人を通じて機能することとなるからである。したがって、この任意後見制度は、成年後見監督人がその職務を怠らず遂行している、ということも大前提として適正な制度の維持が図れるものと考える。任意後見監督人は、複数でも、また法人をも選任できる。従って、任意後見人が親族の場合は一定の専門家が、法人や団体の職員の場合はその法人や団体が選任されることとなろう。
いずれにしても信頼できる数多くの成年後見を目の当りにすることによって、判断能力があるうちに自己決定権を行使して任意後見契約を締結しようという委任者が増加するのではないだろうか。

 よって、成年後見制度の普及には、誠実で信頼できる成年後見人と成年後見監督人の確保が最重要課題であるといえるのではないだろうか。