税理士が行う成年後見人等

 2000年4月1日からスタートした成年後見制度、間もなく10年が経とうとしているが、税理士の成年後見への関わりは、弁護士や司法書士さらには行政書士に比し、非常に少ないと聞いている。そこで、税理士が行う成年後見人等の意義について考えてみることとした。

 我が国では従来、障害者等に対して普通に接するということができていなかったように感じているのは私だけであろうか。10年以上前に、事故で骨折して入院した際、ある脳性マヒの車椅子に乗った少年と接する機会があった。そのときに実感したのが、決して障害を持って生きることは特殊なことではないということである。健常者でも苦手な動作や出来ないことはある。お互いに、それぞれが出来ないことを助け合って社会生活を営んでいけばよいのであって、特別な同情や必要以上の干渉は無用なのである。今後高齢化に伴い急増する高齢者にとっても同じことが当てはまる。

 成年後見制度は、本人の残存能力の活用による自己決定権の尊重、ノーマライゼーション、そして本人の保護を基本理念とするものである。
ノーマライゼーションとは、障害のある者も家族や地域で、健常者とともに通常の生活を送ることができる社会を作ろうとする考え方で、以前に私が感じたことは、まさにこの「ノーマライゼーション」であると、初めてこの言葉を耳にしたときは感銘を受けた。
従来の禁治産・準禁産制度は、その立法目的が、本人の財産保護や経済取引の安全確保にあり、戸籍記載などにより身分的悪影響を及ぼし、差別感を生み、さらに自己決定権の尊重は希薄であったといえる。そういった種々の点を考慮して、2000年4月に制定されたこの成年後見制度であるが、今後急速な高齢化の進展に伴い、何らかの保護を必要とする高齢者等が急増すると推測される我が国で、適正な運用ということがますます重要となってくるであろう。しかし、この制度の主役ともいえる成年被後見人等がどんどん増加すると予測される一方、その人たちを支える成年後見人の数は十分なのであろうか。
現在、全国の税理士会員数は約7万名以上であり、その拠点は全国各地に存在する。そして、税理士法第1条に税理士の使命として掲げられている理念、また近畿税理士会会則40条41条42条にある「信頼にこたえる」「常に深い教養の保持と高い品性の陶冶に努める」「信用失墜行為の禁止」などの諸則は、成年後見人等として活動するときにも、もちろん遵守すべきことと合致する。
 成年後見人等の職務には、財産管理と身上監護がある。そしてその職務を遂行するにあたっては、本人の意思を尊重し(意思尊重義務)、本人の心身の状況及び生活の状況に配慮しなければならない(身上配慮義務)と定められている。
税理士は、上記の財産管理事務を行う適任者といえるのではないだろうか。財産目録の作成あるいは確認から始まって、法定後見の場合、本人の財産に関するすべての法律行為、例えば、預貯金の管理、収入や支出の把握とその管理、居住用以外の不動産の売買などを本人に代わって行うことができる。また、本人自ら行った法律行為で本人にとって不利益なものについては、原則として取消権を行使することができる。
そして、財産管理事務内容を対象機関に報告する義務もある。これらの職務の内容は、税理士にとっては、まさに得意分野とするところである。
他方、身上監護の職務については、どうであろうか。
 税理士が、税の専門家としてクライアントと接するのは、会計や税務申告に関してだけであろうか。堅固な信頼関係が結ばれたクライアントからとってみれば、一種の「よろずやさん」的なところがなきにしもあらずと考える。とにかく、税理士業務以外の種々の相談を受けることもある。そのときの対応を「身上監護」に当てはめてみてはどうだろうか。相手のことを親身に考えて、介護サービスやその他福祉サービスあるいは福祉施設入所などの契約を締結する。これらは、個人の日常生活等に関わるもので、社会生活を送る人間を支える行為であり、高度な医学知識等は求められていない。サービス内容の比較や手続などに関する情報収集や知識を得るための努力は、クライアントからの相談によきアドバイスを提供するために情報を収集する努力にも類似する。 
 成年後見制度を単にビジネスチャンスと捉えてはならないと思う。税理士ではなく一個人として社会に貢献することの意義に加え、この制度を通じて社会に貢献することは、税理士にとって社会における存在意義とその知名度と社会的地位をさらに向上させる結果にもつながるものと考える。